月の砂漠をホーリーボルト

コメントがつくと喜ぶ
 
<< October 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< ダイエット開始 | main | 5月は別れの季節なのか >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
思い出のビッグボーイ
 JUGEMテーマ:日記・一般

 月に一度、老人ホームに母を預かってもらう。ショートステイというやつだ。期間は短くて4日、長いときで1週間。ふだんは母の世話を姉たちに任せっきりなので、その罪ほろぼしのような気持ちもあって、ショートステイの期間中に一度は施設に顔を出すことにしている。母のぶんと自分のぶんのシュークリームかエクレア、またはプリンを買っていき、ふたりでそれを食べながらほんの数分だけ話をして、すぐに帰る。母は自分から話をするタイプではないから、ごく短時間の面会でいいのだ。それでも息子が会いにくることはうれしいようなので、ここ3年ほどは毎月通っている。

 施設に行く途中にビッグボーイがある。グリル系の料理をメインとするファミリーレストランだ。母の見舞いに向かうバスの車窓からその町のビッグボーイを発見したときは、懐かしさで不意に胸を衝かれた思いがした。こんな場所にもあったんだ、ビッグボーイ。



 

 もう7年も経ってしまった。
 当時のわしは世田谷のはずれに住んでいて、ハテナは3歳だった。木曜日はわしが早めに仕事を切り上げてハテナを保育園に迎えに行き、ハテナといっしょに食事をする当番だった。前日の夜、ハテナといっしょに風呂に入ったときに木曜の夕食のリクエストを聞いておく。明日は父ちゃんの日だけど、なに食べる? 「焼き鳥丼!」と元気な答えが即座に返ってくることが多かった。わしの作る焼き鳥丼はたいしたものではなく、商店街の肉屋で買った焼き鳥を串からはずし、白いご飯の上に並べてタレをかけまわすだけのものだ。工夫というのもおこがましいが、ただひとつの工夫は、かけるまえにタレをあたため直すことくらいだった。それでもハテナは気に入ったようで、おいしそうに食べてくれた。

焼き鳥丼以外のリクエストで多かったのがビッグボーイだ。ビッグボーイは家から4〜5キロの場所にあった。徒歩では遠すぎるから車で行くことになる。ハテナのリクエストが「ビッボー!」だったときは、いつもの木曜日よりもさらに早く仕事を切り上げ、保育園に迎えに行く前にいちど帰宅して車を出す必要があった。

 ハテナに接するわしの態度は、保護者や父親のそれではなく、ファンに近いものだったと思う。ハテナが危険なことをしそうなときだけは叱りもしたが、たいていは自由に遊ばせていた。いや、遊んでもらっていた、と言ったほうが合っているかもしれない。だからビッグボーイでの食事や往復の短いドライブの時間はわしにとってはデートのようなもので、「ビッボー!」のリクエストがあると心が躍ったものだった。

 よくあるサービスだが、ビッグボーイは小さな子供におもちゃをくれた。何回か遊べば壊れてしまう粗い作りのものが多かった。それでもハテナは喜んでいたし、案外おもちゃが目当てでビッグボーイに行きたがっていたのかもしれない。ふたりでテーブルにつき、オーダーを済ませたころに蝶ネクタイのウェイターがプラスチックの篭をふたつ持ってやってくる。男の子用のおもちゃと、女の子用のおもちゃの篭。ハテナは毎回じっくりと吟味して、たいていは男の子用のおもちゃを選んだ。なぜだかわしはハテナが男の子用のおもちゃを選ぶことがうれしかった。ハテナは子どもにしては気を使うようなところがあったから、わしの心中を察してわざと男の子用のおもちゃを選んでいたのかもしれない。

 ビッグボーイには、当時としては珍しかったサラダバーがあった。ふだん野菜が不足していることを自覚していたわしは、ここを先途とばかりに何度もサラダをおかわりしに席を立つ。ある日、テーブルに戻ると、幼児用の椅子にちんまりと納まったハテナが周囲のテーブルを見まわし、「みんな、がっかりしてるねー」と言った。なんのことかとまわりを見ると、広い店内のあちこちにいる客が揃いも揃って携帯電話をいじっていた。背中を丸めて携帯電話を覗き込むその姿は、たしかにがっかりしているように見えた。うん、がっかりしてるね。答えてから、わしは声を出して笑ってしまった。うまいことを言ったご褒美としてハテナの頭をわしわしと撫でまわしたが、本人はきょとんとしていた。

 会計を済ましてドアを開け、ハテナの手を引いて駐車場に出る。ビッグボーイの入口の脇にはマスコットキャラクターの人形が置いてある。リーゼントで、チェックのオーバーオールを着た男の子だ。ボビーという名のその人形に、ハテナはいつも「またね、ビッボー」と手を振った。

 



 母の面会に行くたびに、今日こそビッグボーイに寄ってみようと思う。しかし、ひとりで入ってはいけないような気がして毎回通り過ぎる。

 この町のビッグボーイの客も、がっかりしているのだろうか。



| 日記 | 19:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | 19:04 | - | - |









http://nasobema.jugem.jp/trackback/256